世界観WORLD
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序
ここではない、どこかの世界。
科学技術の発達に伴い、人は新たな領域に踏み出していた。
本来目に見えないものを可視化する技術を開発したのだ。
目に見えないもの すなわち、......心。
当たり前のように誰もが持っているものなのに、誰一人(自分自身でさえも)完璧に制御
することは叶わない。
人にとって最も難解であり、最も興味を引き続けるもの。
喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、愛情、嫌悪、驚き、期待、恐怖、苦悩 。...... あらゆる心が、あらゆる行動の起因となる。
その心を可視化することでより深い相互理解を可能にし、行き違いはなくなり、愛情はより深まって、恐怖を克服することだってできるだろう。
そんな理想と希望と、少なくもない野心と欲。
様々な議論を巻き起こしながらも、世界中から「心を見る」技術開発のため、多くの叡智が集められた。
かくして、それは実現した。
心の可視化を可能にする夢のシステム。
Mind Embodiment System:MES(通称:メス) -
破
発表当時、MESは心の可視化に反対する人々から
「本来隠されるべき心を切り開く禁断の刃物(メス)」
と揶揄され、非難された。
しかしMESを活用することの恩恵は想像以上に多く、やがて生活の基盤に広く組み込まれるようになる。
快適さの追求のため、精神医療の発達のため。
その他、娯楽、芸術、学術、そして当然のように軍事関連の開発にも。
いつしか人々は本来は目に見えないはずのもの……心を見ることが当然になっていった。
見えない心が、自分たちに牙を剥くとは考えもせずに。 -
急
悲劇のはじまりは、とある国の軍事研究だった。
その国の軍部は、MESを更に進化させて心を具現化できないかと考えたのだ。
具現化が可能になれば、外部からより直接的に影響を与えられるようになる。
目的に応じて誘導したり、矯正したり、場合によっては破壊することさえも可能になるはずだ、と。
対象の従属化、あるいは無力化が可能な次世代の兵器として、秘密裏に研究は進められた。
のちにNeo-MES(ネオ・メス)と名付けられたこの恐ろしい研究が公になったのは、研究がはじまってから約10年後のことだった。
自らが作り出したNeo-MESの暴走、その結果生み出された怪物によって、かの国は事実上、壊滅したのだ。
人の心が生み出した怪物……彼の者の名は「Regret(リグレット)」。
人の心が生み出した怪物「Regret(リグレット)」。
「後悔」「心残り」の意味の名を持つ怪物は、心のままに人を襲う。
あるものは人を八つ裂きにする。
まるで「憎悪」が吹き出したかのように。
あるものは人を飲み込もうとする。
まるで「寂しさ」で誰かを求めるように。
あるものは人を操ろうとする。
まるで「傲慢」などこかの独裁者のように。
姿、形、能力。
ひとつ考えもせずにとして同じ個体はなく、それはまさに人の心そのものとも言えた。
唯一同じなのは、人を求めること。
Regretに襲われた人々は無残に殺されるか、同じもの(Regret)に成り果てた。
人々にとって災いとなったのは、心を具現化した怪物に対して、物理的な攻撃がほぼ意味を為さなかったことだ。
あらゆる重火器、爆弾、生物兵器、神経毒、ミサイルや核兵器までもが対 Regretに持ち出されたが、
そのほとんどが大地を焼くだけで終わった。
Regretは一度は消滅したとしても、時間経過で復活するのだ。
かくしてRegretの世界侵食がはじまった。
かの国から広まった心の怪物は、ゆっくりと だが着実に周辺諸国を侵食していった・・・・・・。
Regretが生まれ落ちて5年。
世界の半分近くがRegretの支配下となっていた。
人々の大半は母なる大地を諦め、宇宙(そら)に浮かぶコロニーへと逃げ出していた。
......このまま大地はRegretのものとなるのか。
世界中が絶望に覆われる中、ある一筋の光明が差す。
とある辺境の国家に伝わる武器に特殊な加工を施したものが、Regretに有効であると判明したのだ。
それは、Regretを生み出した亡国の軍事研究の残滓から生まれた技術だった。
心を金属に打ち、込める技術。
それを用いて加工した金属を使い、伝統的な技法で鍛造された武器。
ここに、対Regret最終決戦兵器が生まれたのだ。
使用者の心を刃とする武器......
刀(かたな)の誕生だ。
世界を取り戻す。
そのために――斬る。